北方謙三先生インタビュー 3
インタビュアー |
「実は先生を身近に感じた文章があって、それは実は先生が極真空手を語っていらっしゃった文章でした。100人組み手のことでしたね。私は10人組み手までやりましたが、非常に身近に感じました。」 |
北方先生 |
「百人組み手は尋常じゃないよね、人間業じゃない。百人と闘うんだから。ほとんど死域に入るって言うね。」 |
インタビュアー |
「なんか突き抜けていくんでしょうね。」 |
北方先生 |
「突き抜けていって、死すれすれまで練習する人たちだからね。
たとえば松井章圭(空手の極真会館の)館長と話す、数見肇と話をする、今だったら若いヤツが田中健太郎と話をする、水滸伝なんかね、登場人物の半数以上はオリンピック選手クラスなんだからね。(笑)」 |
インタビュアー |
「(笑)。」
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北方先生 |
「(笑)人間がね、生きたままどこまでいけるのか、という話をしたんだよね。そしたら松井館長だったと思うけども、新撰組の資料を持ってきてね、『死相が出てる』って言うんだよ。死相が出てる、でも斬りあう、そんなときは死なないんだって。そんな状態では、いくら斬っても死なない、で、遠巻きにして槍で突き殺せ、というのが新撰組の闘い方なんだよね。死相が出てる人間というのはね、普通の人間が死ぬときでも相当長く闘って、そして死なないんだって。」 |
インタビュアー |
「そこまで行くんですか。」 |
北方先生 |
「人間の顔してないみたいよ、そういうときは。水滸伝で言うと、そういう死相を呈した人間に、たとえば楊志(ようし)がいるし、朱仝(しゅとう)がいる。 |
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朱仝なんて、死んでいるんだよ、林冲なんかが駆けつけたときはもう死んでいることがわかっている。『おう、林冲』『おう、朱仝。』『先に逝って悪いな』って言って死ぬんだから。(笑)」 |
インタビュアー |
「人数合わせですか。(笑)
私の会社にはボクサーがいますが、空手であれ、ボクシングであれ、経験すると試合というのは擬似の死の体験であって、それを経験するのとしないのは随分腹の据わり方が違うような気がします。」 |
北方先生 |
「僕はね、まだ世界チャンピオンだった具志堅用高とスパーリングっていうか、1ラウンドやったことがあってね。(笑)」 |
インタビュアー |
「えー!強かったでしょう?」 |
北方先生 |
「話にならないよ。(笑)ミットなんか一緒にやったりしたからさ、『いけるんじゃないかな』なんて思ったんだけどさ、もう最初の一分なんか、どこにいるかわからないわけ。で、次の一分は目の前に現れてさ、でも当たらないわけ。で、三分もたずに疲れて倒れちゃったんだけど。(笑)で、聞いたら、足の位置だって言うんだよ。」 |
インタビュアー |
「間合いですね?」 |
北方先生 |
「そう。足の位置を見ただけで、どこまでパンチが届くか、わかったというんだね。目もつぶらず、構えも崩さないんだから。
一芸に秀でるってのはすごいことだよね。
そういうとんでもない男たちの闘い方がね、水滸伝の中に生きているんだよ。」 |
インタビュアー |
「王進が教えるシーンなんか、本当、北方先生は何かやっていらっしゃったのかな、と思いました。」 |
北方先生 |
「俺?柔道だけやってた。(笑)高校2年で2段までやったんだよ。」 |
インタビュアー |
「唐津で?」
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北方先生 |
「東京で。中学・高校と芝学園だったからさ。高校2年終わったら受験勉強に入るんだけど、そのときね、東京オリンピックで金メダルとった岡野功って人が稽古つけにきてくれたんだけど、もう組んだ瞬間に舞ってるわけ。舞の海に腕相撲で負けたくらいで、力には自信があったんだけど、渾身の力を出してもだめなわけ。
あらゆるスポーツはタイミングだからね。
世界で一流までいった人はすごいよ。そんな岡野功さんとか、具志堅用高、松井章圭館長とか、小川直也とかと話をしたりしてるよね。水滸伝っていうのは、戦いの場面がたくさんあるから、彼らが言ったこととか、彼らがやってくれたこととかが役に立ってますよ。 |
インタビュアー |
「読み出した人たちが夢中になるのは、そんな男たちが魅力的だからでしょうか?」 |
北方先生 |
「夢中になってくれるといいね。(笑)」
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